
はじめに
診療所の開設届を提出した後は「実地検査」が行われます。ここでは、届出内容が現場の施設や設備と一致しているかを確認するだけでなく、安全管理体制が適切に整備されているかどうかも審査されます。
また、開設後も継続的に行政への届出義務があります。本記事では、実地検査の流れとチェック項目、さらに開設後に必要な手続きを整理します。
実地検査の目的
実地検査は、診療所が法令に適合した形で運営できるかを確認するために行われます。
開設届に記載された施設構造や職員体制が現実と一致しているかを検証し、患者が安全に医療を受けられる環境が確保されているかが判断されます。
検査には管理者である医師の立会いが求められるのが基本です。
実地検査で確認される項目
実地検査の内容は多岐にわたります。代表的なものを挙げると次のとおりです。
① 院内掲示
管理者名、診療日、診療時間、勤務医師の氏名などが入口や待合室に掲示されているか
② 部屋の用途表示
「診察室」「処置室」「検査室」などのプレートを掲示しているか
③ 構造
他の施設と区画が明確に分けられ、診察室・処置室・待合室・廊下等が明確に区画されているか
④ エックス線装置及びエックス線診察室
エックス線診察室の放射線防護、操作場所、必要な表示、器具類等があるか
⑤ 感染性廃棄物の処理
感染性廃棄物について、運搬業者及び処理業者等と感染性廃棄物処理契約がされているか
⑥ 消火設備
消火設備としてスプリンクラーが設置されていない場合、消火器が用意されているか
⑦ 医薬品の保管場所
毒薬や麻薬の取り扱いがある場合は、毒薬用のかぎのかかる保管場所、麻薬専用の金庫が用意されているか
⑧ 安全管理体制の確保
以下に掲げる指針等の策定、措置を講じているか
・医療に係る安全管理のための指針の整備(従事者の研修、事故報告等改善に関すること)
・院内感染対策のための指針の策定
・医薬品の安全使用のための責任者の配置及び業務に関する手順書の作成
・医療機器の安全使用のための責任者の配置、保守点検に関する計画の策定
・診療用放射線の安全管理のための責任者の配置、指針の策定
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医療広告関係法令を遵守しているか
このように検査は「書類」「構造」「運営体制」の三方向から確認され、診療所が安心して診療を行える状態かを審査します。
実地検査を受けるための準備
実地検査で不備が発覚すると、是正指示が出され、開設や診療開始が遅れる場合があります。そこで、開設前に以下を確認しておくと安心です。
① 開設届に記載した図面と実際の施設が一致しているか
② 廃棄物処理契約書や管理マニュアルなどの文書類を揃えてあるか
③ 消火器や掲示板など目に見える設備がきちんと整備されているか
行政書士は、検査前に必要書類や掲示物をリスト化し、模擬チェックを行うことで、当日の指摘リスクを減らすお手伝いが可能です。
開設後に必要な届出
診療所が無事に開設された後も、状況に応じてさまざまな届出が必要になります。
① 変更届
名称、診療科目、診療日時、管理者の変更などがあった場合には、10日以内に提出が必要です
② 休止・廃止届
診療を一時的に休止、または廃止する場合も届出義務があります。再開時には再開届を出さなければなりません
③ 保険医療機関指定申請
保険診療を行う場合は、関東信越厚生局へ「保険医療機関指定申請」を提出し、認定を受ける必要があります
これらを怠ると行政処分や診療報酬請求への影響につながる可能性があるため、開設後も継続的な事務管理が求められます。
行政書士の役割
行政書士は、実地検査に向けた事前準備、開設後の各種届出の作成・提出を通じて先生方をサポートできます。診療所の運営は医療行為だけでなく、法令遵守の観点からも継続的な対応が必要です。
特に、検査における掲示や契約書の不備、開設後の届出漏れは意外に多いミスであり、医療専門の行政書士による確認が有効です。
まとめ
診療所開設の最終ステップである実地検査は、医療機関としての安全性と法令適合性を確認する大切な場です。
また、開設後も変更届や休止届など行政への報告が続くため、診療所運営には「法的手続きの継続性」が不可欠です。
医療専門の行政書士は、こうした煩雑な手続きを支援する伴走者として、先生方が診療に専念できる環境を整える役割を果たします。