
はじめに
医療法人のガバナンスは、まず「適正な役員構成」から始まります。
理事・監事の最低人数、理事長の要件、管理者の位置づけ、そして欠員が出た場合の緊急対応など、いずれも医療法と運用通知で明確に定められています。
本ブログ記事では、設立・運営の現場で迷いがちな論点を実務順に解説します。
理事・監事の員数(ミニマム)
原則として、理事は3人以上、監事は1人以上を置く必要があります。
やむを得ず理事3人未満とする場合は都道府県知事の認可が必要で、しかも医師・歯科医師が常時1~2人勤務する診療所を1か所のみ開設する法人に限られます(この特例でも可能な限り理事2人以上が望ましい)。
理事長の選任要件
理事のうち1名を理事長とし、原則は医師または歯科医師の理事から選出します。
非医師を理事長にするには所管庁の認可が必要です。理事長不在・執務不能など非常時には、一時理事長選任の制度も用意されています。
管理者(院長等)と理事の関係
医療法人が開設する全ての病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院の管理者は、原則として理事に加えなければなりません。
複数施設を開設する場合は、知事認可により一部管理者を理事から外すことができます(指定管理者施設の管理者は除外)。
監事の独立性と関与
監事は理事や職員と兼ねられません。
監事は理事会に出席し必要な意見を述べる義務があり、監事選任議案を総会等へ付議する際は監事(2人以上いる場合はその過半数)の同意が要ります。
形式だけの「名義監事」は不可で、財務諸表を実際に監査できる者の選任が求められます。
任期と欠員時のルール
役員の任期は2年以内(再任可)。法または定款で定めた定数を欠いた場合、退任した役員は後任就任まで権利義務を有し、業務遅滞により損害のおそれがあれば、知事は利害関係人の請求または職権で「一時役員」を選任します。
さらに、理事または監事のうち定数の5分の1を超える者が欠けたときは、1か月以内に補充しなければなりません。
役員変更の届出・名簿整備
役員変更はその都度、都道府県知事へ届出が必要です。
名簿には役職・氏名・生年月日・住所・職業・就任日・任期などを整然と記載し、欠員が生じない状態を維持します。
実務でのつまずきと対策
① 理事3名要件の見落とし:分院開設や人事異動でうっかり欠員に。理事候補の事前プールと就任承諾書の早期取得で途切れを防止。特例の適用可否は毎回、開設形態と勤務体制から再確認。
② 監事の独立性不足:グループ内人事で兼務させない。候補者の利害関係と実務能力を就任前に精査。
③ 補充期限の失念:5分の1超の欠員発生時は1か月以内に補充。日付管理を理事会議事録に明記。
④ 理事長要件の誤解:非医師理事長は例外で要認可。緊急時は一時理事長でつなぐ選択肢。
まとめ
最小構成(理事3+監事1)と理事長要件、管理者=理事の原則、監事の独立性、そして欠員時の補充・一時役員の制度。この5点を年次の人事・登記・所管庁届出と一体で運用すれば、認可審査・立入時の指摘を大幅に減らせます。
まずは現行の役員名簿と任期満了カレンダーを点検し、「定数維持」「独立性確保」「欠員即補充」をルール化しましょう。
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