はじめに
厚生労働省から発出された「医療法人の合併・分割に関する通知」は、医療法人の組織再編を円滑かつ法令に即して行うための重要な指針です。
私は医療法務専門の行政書士として、この通知を踏まえた実務のポイントを5つのセクションに分けて解説します。
通知の背景と意義
近年、医療法人の経営環境は急速に変化しています。
少子高齢化や医療需要の地域偏在に対応するため、法人間の統合・連携が避けられない状況にあります。
こうした中で厚労省が改めて示した本通知は、合併や分割を行う際の手続・認可・債権者保護などの要件を整理し、都道府県・医療法人双方の実務負担を軽減することを目的としています。
以前の通知(医政指発0531第2号)は廃止され、本通知が新しい基準として機能します。つまり、令和の医療法人運営における「再編のルールブック」といえる内容です。
合併の基本構造と類型
医療法人の合併は、複数法人が契約により一つの法人に統合し、消滅法人の権利義務がすべて承継される法的仕組みです。
社員も自動的に存続法人または新設法人の社員になります。
合併には、既存法人に承継させる「吸収合併」と、新設法人に承継させる「新設合併」の2類型があります。いずれも認可制で、契約書には法人名・所在地・合併後2年間の事業計画・効力発生日などを明示しなければなりません。
特に医療法人では、合併後の「病院・診療所の開設許可」や「医療従事者の身分関係」などが複雑に絡むため、事前相談と工程管理が不可欠です。
認可と債権者保護の手続
合併契約が整った後は、社員(社団)または理事(財団)の同意を得て、主たる事務所所在地の都道府県知事の認可を受けます。
この際、医療審議会の意見聴取が義務づけられています。
認可後2週間以内に財産目録と貸借対照表を作成し、公告および債権者への各別催告を行うことが必要です。
異議申述期間は2か月以上を確保し、異議があった場合には弁済または担保の提供を行います。
これらの手続きを怠ると過料の対象となるため、行政書士としては公告内容や期限管理のサポートが重要になります。
分割制度の概要と注意点
分割とは、医療法人の事業に関する権利義務の一部を他の法人へ移転させる制度で、「吸収分割」と「新設分割」があります。
ただし、社会医療法人・特定医療法人・持分あり医療法人などは制度対象外です。
申請には理由書、契約書、定款、財産目録、事業計画書、役員名簿などを添付し、合併と同様に知事認可・医療審議会の意見が必要です。
また、債権者保護手続や公告義務も合併と同様に課されています。
分割は「事業の選択と集中」を進める際に有効な手段ですが、対象事業の範囲や職員の労働契約承継を慎重に設計する必要があります。
登記・承継・労務対応の実務ポイント
合併や分割の効力は登記によって発生します。
主たる事務所は2週間以内、従たる事務所は3週間以内の登記が義務です。
完了後は速やかに知事へ届出を行います。
承継は包括的であり、医療機関の開設許可や行政処分に基づく権利義務も自動的に引き継がれます。
ただし、不動産の登記や指定医療機関の承継届など、個別の手続が必要な場合もあります。
さらに、労働契約については労働契約承継法の考え方が準用され、職員の同意や就労実態を無視した承継は認められません。
従業員説明会や協議の記録を残すなど、労務面の配慮が不可欠です。
まとめ
通知が示す5つの柱は、
①契約内容の適正設計
②社員・理事の意思決定
③知事認可と審議会意見
④債権者保護
⑤登記・届出の期限遵守です。
行政書士としては、これらの工程を「法的安全性」「実務効率」「関係者保護」の3軸で設計支援することが使命といえます。
医療法人の合併・分割は、地域医療の再構築に直結する大きな制度。
通知内容を正しく理解し、適正な再編手続を通じて、持続可能な医療体制づくりに貢献していきましょう。
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